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中枢神経原発DLBCLの診断と管理に関するガイドライン

Guidelines for the diagnosis and management of primary central nervous system diffuse large B-cell lymphoma

Br J Haematol. 2019 Feb;184(3):348-363.

PMID: 30467845, doi: 10.1111/bjh.15661.

 

中枢神経原発リンパ腫(primary CNS lymphoma, PCNSL)の診断と治療に関するガイドラインです。対象は中枢神経(脳,脊髄,脳神経,眼,髄膜)原発のDLBCLで,二次性CNSリンパ腫(secondary CNS lymphoma),免疫不全関連リンパ腫,DLBCL以外の組織型は本ガイドラインの対象外です。

 

診断と画像検査 Diagnosis and imaging

1. PCNSLが疑われる患者については,遅れを最小限にするために早い段階で専門家とディスカッションを行うべきである。(1C)

 

2. PCNSLの確定診断には組織診または細胞診が必要である; MRIの所見のみでは不十分である。診断は,専門家が血液病理学的検討により確認するべきである。(1B)

 

3. 生検前に副腎皮質ステロイドを投与することは避けるべきである。(1A)

 a. 既にステロイドが投与されていて尚も造影される病変が残っている場合には,診断内容を改善するために,緊急生検の前にステロイドを中止するべきである。(1B)

 b. PCNSLを疑われていた病変がステロイドで消えた場合には,病変が再増大している場合に緊急の生検を行うため,短い間隔を置いてからMRI検査を再度行うべきである。(1B)

 

4. 組織診を行う場合のアプローチとして脳の定位生検が推奨される。不必要な外科的切除を避けるため,細胞診と凍結切片を用いた術中迅速診断が推奨される。(1B)

 

5. 眼内原発リンパ腫(primary intraocular lymphoma, PIOL)の診断を確定させるため,理想的には硝子体生検と,網膜下吸引subretinal aspirationまたは脈絡網膜生検を組み合わせるべきである。(1B)

 

6. 生検ができない状況では,MRIの特徴的な所見と臨床徴候に加えて(AND),マルチパラメータフローサイトメトリーと(and/or)PCRによるIGHV遺伝子再構成の検出により脳脊髄液または硝子体液中にクローナルなB細胞が多数存在することを示すことで,PCNSLの診断を支持し得る。(1B)

 

7. 治療前,治療効果の評価に用いる画像検査としては,造影MRI(diffusion seqenceを含む)が推奨される。専門のneuroradiologistがneuroaxis imaging(脳と全脊髄)をレビューするべきである。(1B)

 

8. 眼内病変を除外するため,全ての患者に細隙灯検査を含む綿密な眼科的評価を行うべきである。(1B)

 

9. 全身病変を除外するため,全ての患者に横断的画像診断cross-sectional imagingを行うべきである。(1A)

 a. FDG PET-CTが推奨される。PET-CTが実施できない場合には,頚部,胸部,腹部,骨盤の造影CTを行うべきである。(1B)

 b. 男性には精巣の超音波検査を行うべきである。(1B)

 

10. 診断が確定したPCNSLの症例は全て,MDT(multidisciplinary team)においてディスカッションされるべきである。患者は可能な限り速やかに,理想的には診断から14日以内に,PCNSLに関する複数領域の専門家が集まる施設において治療(definitive treatment)を受けるべきである。(1B)

 

中枢神経原発リンパ腫の治療 Treatment of primary CNS lymphoma

寛解導入療法 Remission induction

1. 化学療法の適格性は,実際の年齢よりも身体的な状態により決定されるべきである。(1A)

 

2. 可能であれば,随時臨床試験に参加するべきである。(1A)

 

3. 大量メトトレキサート(HD-MTX)を組み込んだレジメンに適応がある患者について:

 a. 強力な治療への適格性があれば,4サイクルのMATRix(HD-MTX,シタラビン,チオテパ,リツキシマブ)を提示する。(1A)

  i. 初診時にパフォーマンスステータスが損なわれている場合,並存疾患がある場合,過去にMATRixによる重大な毒性が生じた場合には減量を考慮するべきである。(2C)

  ii. G-CSFや日和見感染症予防を行うべきである。(2C)

  iii. 自家幹細胞移植を併用した大量化学療法(HDT-ASCT)を計画している患者においては,実施可能であれば2サイクル目の後に末梢血幹細胞(PBSC)採取を試みるべきである。(1B)

 b. 強力な化学療法が適応とならない場合,HD-MTX,リツキシマブ,経口アルキル化剤を用いた確立したレジメンを提示する(e.g. R-MP[リツキシマブ,メトトレキサート,プロカルバジン])。(1B)

 c. HD-MTXは少なくとも3 g/m2を2〜4時間かけて投与し,これを2〜3週間毎に4サイクル以上繰り返すべきである。(1B)

 d. リツキシマブは375 mg/m2を8サイクル投与する(MATRixレジメンでは1サイクルで2回投与する)。(1A)

 

4. HD-MTXの適応が無い患者については,以下のいずれか1つ,または2つ以上を組み合わせた治療を考慮する。(2C)

 a. 経口化学療法(テモゾロミドなど)。

 b. 全脳照射(WBRT; 1回線量1.8〜4 Gy,合計20〜30 Gy。パフォーマンスステータスに応,治療目的,生命予後に応じて調整する)と,眼病変がある場合には眼窩への照射。

 c. 副腎皮質ステロイド(デキサメタゾンがよく用いられる)。

 

5. 抗癌剤の髄腔内投与は,中枢神経の治療を意図した全身化学療法との併用は推奨しない(1A)が,全身治療の適応がない患者において軟膜病変の症状をコントロールする場合には考慮しても良い。(2C)

 

6. 治療効果の評価は,造影MRIで行うべきである。

 a. PBSC採取のタイミングを伝えるために,1サイクル終了時点で考慮する。(2C)

 b. HD-MTXベースの化学療法においては,2サイクル毎と,寛解導入療法終了時に実施する。(1B)

 

地固め療法 Consolidation treatment

1. 地固め療法は,導入療法後にリンパ腫が増悪していない患者全てで考慮するべきである。実施するかは並存症,パフォーマンスステータス,認知機能,患者の希望を踏まえて判断するべきである。(1B)

 

2. 適応のある患者全てで,大量チオテパをベースとしたASCT併用化学療法を地固め療法の1st lineとして考慮するべきである。(1B)

 a. HD-MTXベースの1st line化学療法を行なった後にstable disease以上の状態のCNS原発リンパ腫患者はASCT併用大量化学療法(HDT-ASCT)を考慮するべきである。(1B)

 b. CNS原発リンパ腫におけるHDT-ASCTの前処置として,BEAM(carmustine,エトポシド,シタラビン,メルファラン)を用いるべきではない。(1A)

 

3. 以下の場合には地固め全脳照射(WBRT) +/- ブーストを考慮するべきである

 a. 導入免疫化学療法後に残存病変があるが,HDT-ASCTが不適格な患者。(1B)

 b. チオテパベースのASCT後に残存病変がある患者。(1B)

 

4. 眼病変が並存している患者については,HDT-ASCTが不適格な場合,あるいはチオテパベースのASCT後に完全奏効(CR)が得られない場合には両眼窩への放射線治療も検討するべきである。(2B)

 

5. HD-MTXレジメンでCRが得られ,HDT-ASCTが不適格な患者については,地固めWBRTは議論の余地がある。

 a. 各患者毎に,無増悪生存を改善する可能性と,認知機能についての毒性リスクとを慎重に天秤に掛けるべきである。(1B)

 b. HD-MTXで寛解が得られた60歳以上の患者については,認知機能への毒性のリスクがより高いことを踏まえて,WBRTを省略するべきか,あるいはより低線量の地固めWBRTを考慮しても良い。(2B)

 

6. WBRTを行う場合,用量とスケジュールは年齢,並存症,導入療法に応じて推奨される。

 a. 36 Gyを20分割。(1B)

 b. 神経毒性のリスクが高い場合には23.4 Gy (1回線量1.8または2 Gy)に減量する。(2C)

 c. WBRTを行う時点で残存している造影病変に対しては1〜2 cmのマージンで9 Gyのブースト照射を考慮する(total 45 Gy/25分割)。

 d. 30 Gy照射した後は眼窩を遮蔽する(眼病変があった症例では36 Gy照射後)。

 

フォローアップ Follow-up

1. 地固め療法が終了してから1〜2ヶ月後に,造影MRIで治療効果を評価する。(1B)

 

2. 治療後最初の2年間,救援療法の適応がある患者については造影MRIでのフォローアップを検討しても良い。治療終了から2年間,3〜4ヶ月毎に検査を行うのが一案である。それ以上のMRIでの監視は,個々の症例毎に判断する。(2B)

 

眼内原発リンパ腫 Primary intraocular lymphoma (PIOL)

1. PIOLはHD-MTXをベースとした化学療法とリツキシマブを併用して治療する。適応のある患者に対しては,MATRixレジメンのような,エビデンスに基づいたPCNSLの導入プロトコルを用いることを検討する。(1C)

 

2. MTXの硝子体内投与(習熟した眼科医によって行う)は,高齢で全身化学療法の適応がない孤発性PIOL患者に対して考慮しても良い。

 

3. HD-MTXレジメンで全身化学療法を受ける患者に対する硝子体内治療の併用は,ルーチンには推奨されない。(2C)

 

4. 強力な全身化学療法が奏功したPIOL患者については,以下の地固め療法のオプションを検討する。

 a. 適応のある患者については,大量チオテパをベースとした化学療法とASCT。

 b. 両眼窩への放射線治療(最大36 Gyを1.8〜2 Gyに分割)。WBRT(23.4〜30 Gyを1.8〜2 Gyに分割)の同時併用も検討するが,認知機能への毒性のリスクを患者毎に慎重に天秤に掛けるべきである。(2B)

 

再発・難治性PCNSL Relapsed and refractory PCNSL

1. PCNSLの再発が疑われる患者は全て,地域のMDT会議で直ちに再検討する。最初に治療を行った血液-腫瘍チームに適切な情報提供を行う。(1C)

 

2. MRIの所見が非典型的な場合や,前回の治療から2年以上経過した後に新たな病変が見られた場合には,再生検が推奨される。強力な救援療法が計画されている場合には,特に推奨される。(2C)

 

3. PCNSLの再発が確定した患者は,さらに治療を行う計画がある場合には再ステージングを行う。1st lineの治療に抵抗性の場合,再ステージングは通常必要ではない。

 

4. 可能な時は随時,臨床試験への参加を提示する。

 

5. 臨床試験以外では,以下の項目を考慮した上で,可能性のある治療オプションを個別化して実施する。(1C)

 a. 身体的な健康状態,パフォーマンスステータス,認知機能

 b. これまでに行った治療と奏功期間

 c. 患者自身の選択

 

6. 強力な治療の適応がある患者の場合

 a. 治療抵抗性,あるいはMTXベースの免疫化学療法を行った後早期に再発した場合は特に,イホスファミドベースの免疫化学療法を検討する。(2B)

 b. HD-MTXベースの治療を行なって最初の寛解が得られてから2年を超えた後に再発した場合には,HD-MTXベースの免疫化学療法を検討する。(2B)

 

7. 救援化学療法後の地固め療法

 a. 過去にHDT-ASCTを行なっていない患者については,2回目以降の奏功がみられた際にチオテパベースのHDT-ASCTを検討する。

 b. HDT-ASCTの適応がないか,あるいは過去に行なったことがあり,かつ過去にWBRTを行なっていない患者については,WBRTを単独で行うか,あるいは救援化学療法後に行うことを検討する(23.4〜36 Gyを1.8〜2 Gyに分割)。

 

 8. 強力な治療に適応がない患者の場合

 a. 緩和的な治療を提示する。WBRT(23.4〜36 Gyを1.8〜2 Gyに分割),副腎皮質ステロイドと(and/or)経口テモゾロミドなど。(2C)

 b. ベストサポーティブケアを行い適切な場面で緩和ケアも取り入れる。(1B)

 

神経心理学的評価 neuropsychological assessments

1. PCNSL患者においては,長期のモニタリングで治療前後の認知機能とQOLに関するアウトカムを評価する。

2. PCNSLの治療を受けた患者は,治療の前後で最低でも認知ドメインcongnitive domains,処理速度,運動速度,実行機能,記憶を評価する。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov