成人の重症COVID-19患者を対象とした、レムデシビルの多施設共同臨床試験
Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial
Lancet 2020, DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)31022-9
背景
重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の治療において効果が証明された特異的な抗ウイルス薬は無い。レムデシビル(GS-5734)はヌクレオシドアナログのプロドラッグであり、動物やヒトに病原性を示すコロナウイルスにin vitroで阻害作用を示し、これには重症急性呼吸症候群コロナウイルス2 (SARS-CoV-2)*1も含まれている。また、動物モデルにおいて中東呼吸症候群コロナウイルス(SARS-CoV-1)やSARS-CoV-2の複製を阻害することが示されている。
方法
著者らは、中国湖北省の10病院において、ランダム化・二重盲検・プラセボ対照の多施設共同試験を実施した。
適格患者は成人(年齢18歳以上)で、検査によってSARS-CoV-2感染と確定した入院患者で、発症から試験登録までの間隔が12日以内であり、酸素飽和度が室内気で94%以下または動脈血酸素分圧の吸入気酸素割合に対する比*2が300 mmHg以下、かつ画像検査で肺炎と確定している患者とした。
対照患者を2:1の割合でランダムに2つの群に割付け、前者の群ではレムデシビル(1日目 200 mg 1回、2〜10日目 100 mg)を静注投与し、後者の群では同量のプラセボを10日間静注投与した。
ロピナビル・リトナビル、インターフェロン、コルチコステロイドの併用は許可された。
プライマリ・エンドポイントは臨床的改善までの期間(28日以内)とし、ランダム化からsix-point ordinal scale of clinical status (退院=1点 〜 死亡=6点)が2段階低下するまで、または生存退院するまでの日数と定義した。
主要な解析(primary analysis)はintention-to-treat populationで実施し、安全性解析は割り付けられた治療を開始した患者全員を対象に実施した。
この試験はClinicalTrials.govに登録されている(NCT04257656)。
結果
2020年2月6日から2020年3月12日までの間に、237人の患者が登録され、治療群にランダムに割り付けられた(レムデシビル 158人、プラセボ 79人)。プラセボ群の1人がランダム割付けの後に参加を撤回し、この患者はITT populationには含まれていない。
レムデシビルの使用は臨床的改善までの時間の差に関連しなかった(ハザード比 1.23 [95% CI 0.87–1.75])。統計学的に有意ではなかったが、発症後10日以内にレムデシビルを投与された患者は、プラセボを投与された患者と比べて臨床的改善までの時間が短かった(ハザード比 1.52 [0.95-2.43])。
有害事象はレムデシビル群では155人中102人(66%)、プラセボ群では78人中50人(64%)で報告された。レムデシビル群では18人(12%)が有害事象のために投与を早期に中止されたのに対し、プラセボ群では投与を早期に中止されたのは4人(5%)だった。
考察
重症のCOVID-19で入院した成人患者を対象とした今回の研究では、レムデシビルは臨床的なベネフィットと統計学的に有意な関連を示さなかった。しかし、早期に治療された患者において臨床的改善までの時間が数値の上で減少した点については、より大規模な試験での確認が必要である。